スポット溶接は被溶接材の抵抗発熱(ジュール発熱)を利用して金属を接合する溶接法です。
熱量は
H(熱量)=V(電圧)×I(電流)×t(時間)
という式で表され
V(電圧)=I(電流)×R(抵抗)
であることから
H(熱量)=I?(電流の2乗)×R(抵抗)×t(時間)
と表すことができます。
この式から、溶接する金属素材の抵抗値によって発熱量が違う事や機械側で電流値・溶接時間を変える事によって溶接を(発熱量を)制御できる事がわかります。
抵抗値の小さな素材は大電流を流さないと大きな発熱を得られません。また、絶縁素材のように抵抗が大きければ電流が流れない為に発熱が起こりません。
さて、2枚の板を重ねてスポット溶接した場合の溶接部位を見てみますと、電流が流れたところ全体が均一に溶けているわけではなく、2枚の板の接している部分がもっとも溶けていて、その為に板がくっついている事がわかります。この時、機械の設定値を変えずに1枚の板だけに電流を流しても板は先程のようには溶けていません。なぜ2枚の板を重ねて電流を流した時に、接合部分が都合よく溶着するのでしょうか。
理由は金属の接合面での電流密度と接触抵抗です。1枚の板を流れる電流は広がって流れますが(図1)、重ねた2枚の板の接触している部分では電流が絞られて電流密度が上がり(図2)発熱量を増大させます。
図1 | 図2 |
図1)1枚の板を流れる電流は広がって流れる(フリンジングという)
図2)重ねた板を流れる電流は接合面で電流密度が増す
接触部の接触抵抗はその金属固有の抵抗値より高い事から、その部分の抵抗発熱が高くなり接合部分の溶着を起こす引き金となります。そして、金属は一般的に温度上昇に伴ってさらに固有抵抗値が上がる事から発熱部分がさらに抵抗発熱で上昇していきます。チップの素材は銅合金が使われているので抵抗値が低く、また、チップ内部に冷却水が循環している構造となっている為、板とチップの接触部は溶着しにくくなっています。
溶着具合は加圧力とも関係があります。機械の設定圧力を高くすると、接触面の微小な凹凸がよく密着し接触面積が増大する為に電流密度が下がり発熱が小さくなります。
逆に圧力が低い時は接触面積が小さくなる為に電流密度が上がり発熱が大きくなります。
スポット溶接の担当者であれば経験的に、圧力が低い場合は中チリ(2枚の板の溶着部分が溶けて外部に火花のように飛び出す事)が発生しやすい事をご存知と思います。この状態は、圧力が低いために接触面積が減少した結果、電流密度が高くなり、発熱過多となっている事を意味しています。
尚、板には同じ加工ロットであっても微小キズや反りの程度にばらつきがありますので、均一な加工を行う為には素材を安定的に密着させる必要があり、機械の圧力設定は高めの方がいいと弊社では考えております。(圧力に合わせて電流値を大きく設定する事で接合強度を確保する必要があります。)
スポット溶接部のへこみについて「圧力が高いからへこむ」と思われている方もいらっしゃいますが、まったくその逆で、圧力以外同じ条件のもとでは圧力を上げていくと接触面積が増大する事で電流密度が下がり、発熱が小さくなるのでへこみも小さくなります。但し、繰返しますが、発熱が小さいという事は当然接合強度も弱くなりますので、通常圧力を上げる場合は電流値を大きく設定する等の注意が必要となります。
チップの先端形状も重要な要素のひとつです。機械の圧力を一定にしても先端面積の異なるチップを使用する場合は面圧が違ってきますので、加工を正確に再現する為にはチップ形状も同じにしなければなりません。また、数多く加工するとチップの先端が熱で変形してきますので、接合強度を安定的に維持する為には、チップ先端を作業中定期的にドレッシングする必要があります。
スポット溶接の課題としては、接合強度の検査を非破壊で行うことが難しい点にあります。従って製品、または製品とほぼ同じ条件の板で破壊試験を行い、機械設定を十分検討した上で本作業に取りかかる事が重要です。加工の途中も破壊試験を行なうことが望ましいと考えます。機械の設定・チップ形状等を正確に記録し、加工の再現性を高める事はスポット溶接に限らず重要なポイントです。